静かで、穏やかで、時間がゆっくり流れている。
私は、この場所が大好きだ。
高校に入学して、3ヵ月が経った頃。
私は居心地のいい、お気に入りの場所が出来て昼休み放課後もそこで過ごすことが多くなっていた。
部活にも入部せず、ただゆっくりと時間が流れるのを楽しむ毎日。
なんかジジババくさい時間の使い方だが、それが楽しかった。
そんなある日…
お気に入りの場所から窓の外を見ると目に飛び込んできたのはグラウンド。
野球部とラグビー部が仲良く譲り合いながら練習をしている。
「俺、野球部に入るんだぜ。」
ふと、同じクラスでご近所の彼の言葉を思い出した。
そういえば、最近まともな会話してないな…
野球部に入部した彼はとても忙しそうだ。
毎日、朝早くから夜遅くまで練習をしているらしい。
そんな彼は今、まさに練習中。守備練習のようだ。
監督のノックに必死にくらいついているのが離れているこの距離でも伝わってくる。
夏の大会のトーナメントが決まり、なんでも第一回戦から強いところと当たるとか。
去年の甲子園出場校とかなんとか噂を聞いた。
負けるかもしれない相手。でも、諦めていないようで、練習からも気迫が伝わってくる。
(まだ、挑戦もしてないもんね)
心の中で、そっとエールを送った。
それから少しして、ある日の昼休み。
いつものようにお気に入りの場所へ来ていた。
いるのは、いつものメンバー。
本を読んだり、勉強したり。
今日はどうしようか…
そう悩みながら本棚を見渡していく。たくさんの本。何か借りようか。
タイトルを見て、何か惹かれるもの…
あ……
「野球の基本」
なんとも普通の、その名の通りの本が目に留まる。
野球っていっつも好きなTV番組を押しのけて放送するから嫌いだった。
でも、今は…
そう思い、本へ手を伸ばすが届かない。思ったよりも高いところにあるみたいだ。
必死につま先立ちをし、手を最大限に伸ばす。
あと少し……
と思ったら、お目当ての本を後ろから伸びてきた手がヒョイッとさらっていってしまった。
「え…」
後ろへ振り向く。
「なに、野球に興味あんの?。」
「孝介…」
「いっつも休み時間になると居なくなるからな。どこに行ってるのかと…
まさかお前が図書室にいるとは思わなかったぜ。はい、これ」
そう言いながら、取ってくれた本を手渡す孝介。
「ありがと。」
「…来いよ。」
「え?何が?」
「何がって試合だよ!県予選だよ!」
静かな空間に、彼の声が響く。
「行っていいの?」
「は?当たり前だろ?何言ってんだよ。」
だって…
「ほら、高校入ってから近所なのに会わないし…クラス一緒でも会話してないし…
孝介は部活頑張ってるのに私はボーっとしてて…
いつも練習してるなぁ、頑張ってるなぁ、次元が違う人だなぁって…」
すこし、距離を感じてた。
「俺が観に来いって言ってるんだから素直に来ればいいだろ?
絶対勝つぜ。相手がどんなに強くてもな。」
距離は、思ったよりも無かったみたい。
「うん、わかったよ。」
そう答えると、孝介はふわっと笑った。
心なしか、胸がバクバクと高鳴る。
私に向けられた笑顔にドキッとしたことは、内緒にしておこう。
(いつか追いつくから。この距離、埋めてみせるよ。)
私が本気になる、1ヶ月前のお話。
キミ
と
の
距離
------------------------------------------------
2015.6.26
ひっさしぶりに小説書きました。
いいですね、続きありそうだ。
Maya